スタジオジブリ製作の『となりのトトロ』と言えば誰もが知る日本アニメの名作。
世界中で愛されている作品だが、もちろん中国でも大人気だ。

ところで、皆さんはこの『となりのトトロ』の中国語タイトルをご存知だろうか。―――『龙猫』と言う。

まず念のために言っておくと「龙猫」は作中で出てくるあのトトロという生き物を指している。
「龙」は日本語の漢字の「龍」の簡体字。つまり、トトロは中国語で「龍のような猫」と翻訳されているわけだ。

トトロが猫?・・しかも龍のような猫!?

納得がいかない!全く意味が分からない!

っていうか全然可愛くない!

という声が聞こえてきそうだ。

私もそう思っていた。しかし、ここから先を読んでいただければなるほど、むしろ「龙猫」(龍猫)と訳す以外になかったのでは?と思うようになるかもしれない。きっと楽しんでいただけると思う。

まず、「龍」の方。「龍」は巨大な爬虫類を思わせる伝説上の生き物なので、
外見的にはトトロと似ても似つかない。

つまり、この「龍」の方はどうやら外見的な共通点のことを言っているわけではなさそうだ。
では、なぜ「龍」とついているのか?

もちろん「龍」と「トトロ」には見た目以外で何らかの共通点があるからだ。
実際「龍」と「トトロ」に共通する属性はいくつかあるのだが、コアとなる部分3つに絞って紹介したい。

啼き声
霊力
巨大さ

以上の三つだ。

なるべく簡潔に説明しよう。

まず、トトロの啼き声と霊力が龍を髣髴とさせる点。

中国では、龍の啼き声は大気に振動を起こすほど大きいといわれている。
トトロも同様に大気を震わせるほど大きな声を出す。この大きな声は作中で何度も出てくるので、イメージしやすい人が多いと思う。

また、龍はこの大きな啼き声によって雲や嵐を呼び、竜巻となって天空に飛翔するというのが中国におけるイメージである。従って、龍は霊力を持つ霊獣である。

一方、トトロも霊力を持っている。大きな啼き声によってネコバスを呼び、風のように空を翔る。回転させた駒に乗って(竜巻―龙卷风のように)飛翔する。中国人としてはむしろこういったシーンを見て龍を想起しないわけにはいかないのではないか。「声」というフィジカルな特徴とこのような能力的な面を合わせれば、トトロと龍が重なって見えてくる。

ちなみに龍は古来より雨を司り、雨乞いの対象とされてきた。
先に述べたとおり、龍は啼き声によって雲を呼ぶ力があるため、雨を降らすこともできるというわけだ。

実は、トトロも雨を司っている。あまり詳しく書くと話しが膨らみ過ぎてしまうのでここでは書かない。バス停でサツキから貸してもらった傘を差しているトトロの姿をある種の象徴として言及するに留めたい(蛇足だが、サツキがこの時トトロにお礼としてもらったのは「竜の髭」で結ばれた笹の葉の包み・・)。トトロから連想される雨の属性。これも中国人が龍とトトロをダブらせるのに一役買っているのではないか。

最後は巨大さについてだ。

実は龙(龍/竜)という字は未確認の巨大な生物や想像上の巨大な生物につくことがある。分かりやすい例で言うと、「恐龙」が挙げられる。Dinosour の-saur(トカゲ)の翻訳にはは「蜥」や「蜴」ではなく「龙」が使われた。西洋のドラゴンも「龙」と翻訳されている。どちらも巨大な爬虫類としての属性を湛えているが、トトロはさすがに爬虫類には見えない。恐らく「龍のように巨大な」という意味がこめられている、というくらいに解釈しておけばよいと思う。

さて、少しはトトロが龍に見えきただろうか?そこまでいかなくとも、なぜ「トトロ」の中国語には「龍」が入ってるの?という疑問は多少解消していただけたのではないだろうか。

だが、問題がまだ残っている。残念ながらトトロは龍ではない。
中国語のトトロは「龙猫」。そう、(名目上は)どちらかと言えば猫ということになっているのだ。

「猫」もなんかちょっとトトロのイメージと違うんじゃない?と思う人が多いだろう。多くの日本人がイメージする「猫」は小さくスリムな外形をしているが、トトロの外形はまんまるで太っていて大きいからだ。むしろ猫というよりは熊かパンダに近いのではないか。

実は、この「パンダ」がキーなのだ。中国ではパンダを「熊猫」という。中国語の分かる人には説明不要だと思うが、「熊猫」「龍猫」どちらも第2声と第1声の組み合わせで発音される。さらに、ピンインで比較すれば母音のほとんども一致していることがクリアになる。

熊猫:xióng māo 

龍猫:lóng māo

つまり、「龍猫」が発音されると音から「熊猫」パンダが想起され、バックイメージとして立ち上がるようになっているようになっている。なんともすごい仕掛けになっていたのだ(意図的に作られたにしろ、偶然そうなったにしろ)。

さて、実際には「龙猫」という翻訳に私が指摘したような意味や意図が込められているのかどうかは知る由もない。
ただ、「龙猫」という中国語訳がどれほど面白いかというのが少しでも伝わったのなら幸いだ。

中国語にはこのような面白い翻訳語がたくさんあるので、今後も紹介できれば、と思っている。

蛇足となるが、最後に『となりのトトロ』の意外な豆知識を付け加えて終わりにしたい。
実は、サツキとメイのお父さんは中国語が堪能だ。

彼は考古学が専門だが、大学で非常勤講師をしながら(主に)中国語の翻訳で生計を立てているらしい。
このことはWikipediaでも紹介されているので、興味のある人は見てみるといい。

編集/ライター Leon Yong