語り部:陶翁

文豪と言えば明治じゃの。正岡子規、夏目漱石、幸田露伴、森鴎外、芥川龍之介など非常に多くの文人を輩出した時代じゃ。今挙げた作家だけでなく、およそ明治の文豪と呼ばれている作家には一つ共通点があることにお気づきじゃろうか。それは、皆例外なく漢文に通暁していたということじゃな。自ら漢詩を作る作家も多かった。例えば夏目漱石などは晩年まで漢詩創作を行っており、作品集が中国でも出版されておる。

さて、この漢詩創作に関してじゃが、文豪や言葉の天才たちの専売特許というわけではなくての、実を言えば誰でもできる。事実、一昔前まで多少教養のある人であれば当たり前のように漢詩を作ることができた。何?そもそも中国語すら知らない日本人がなぜ漢詩を作れるのか?うむ、至極当然の疑問じゃな。実は、結論から言ってしまえば中国語を知らずとも詩の規則を覚えて段階ごとに練習していけば、漢詩はすぐに作れるようになるんじゃ。漢詩創作の方法に関してはある程度体系化されておる。初級のうちはまず詩の規則を学び、漢詩に使用される詩語を集めたり、詩語集から言葉を組み合わせて句を作る練習をする(詩語でパズルをする感じじゃ)。その後一般的には七言絶句から創作できるようにしていき、上達に伴って律詩の創作をできるようにしていくというわけじゃ。漢詩、特に唐詩は世界文学史上でも最高峰のものと評価されておる。その気になれば、我々でも創作することが可能なのは、この詩の規則が整えられているからじゃ。

しかし、まあ、現代の人にとっては「詩の規則」というのがそもそも厄介じゃろ。それに加えそれぞれの漢字の平音、仄音(音声のアクセント)を学ばなければならんし、押韻は種類ごとに決められておる。最初に覚えることがかなりあって、敷居は高いと言えるじゃろうな。

ただ、中国語学習者であればかなりの労力を省くことができる。まず、詩の規則に関してじゃが、これは覚えるしかない。二字目と四字目の平仄は不同でなければならない、二字目と六字目の平仄は同じでなければならないなどの規則がある。が、最大の難関である漢字の平音と仄音を覚える苦労は中国語学習者にとっては無きに等しい。というのも、大雑把に言ってしまえばある程度現代中国語のアクセントと対応しておるからじゃ。次のことを知っておくとものすごく楽じゃよ。

平音:現代中国語の第一声と第二声
仄音:現代中国語の第三声と第四声

無論例外はあるので実際には辞書等での確認を必要とするが、イメージとしてはこのような感覚でひとまず問題ないじゃろ。

それとじゃ、漢詩で使用される語彙、つまり詩語を学ぶにあたって裏ワザ的なツールがあるので紹介しておこうかの。

声律启蒙
笠翁对韵

どちらも中国において漢詩の語彙運用の習得のために用いられておる文章じゃ。声律启蒙も笠翁对韵も文章はほとんど同じじゃが、使用語彙が若干違う。前者は児童用とされておるが、まあ難易度は大して変わらん。漢詩で用いられる語とそのコロケーションなどが広くカバーされておるため、これに載っておる語を覚えてしまえば多くの漢詩をすらすらと読めるようになる

次の書籍がワシの一番のお勧めじゃ。上の二つの文章がどちらもピンイン付きで載っておる。中国の出版社のものなので日本の書店では手に入らんじゃろう。神田の東方書店などの中国書を扱っている書店には置いてある。

『声律启蒙/笠翁对韵』:北京四海经典文化传播中心

漢詩の言語空間、そこには日常とは全く違った世界が広がっておる。詩語を眺めているだけでも楽しい時間を過ごすことができるじゃろう。

陶翁の漢詩中国語講座:弘法大師空海の七言絶句を読む!!