語り部:陶翁

中国史上最高の詩人とされておるのが杜甫と李白じゃな。この2詩人が揃って崇敬の念を抱き、絶賛していた詩人が孟浩然、と過去の記事で紹介した。「春眠暁を覚えず」は唐詩の傑作としてあまりにも有名であるが、他の詩はあまり紹介されておらんようじゃ。孟浩然は特に山水詩では中国筆頭とされる詩人での、徹底的に余分な成分を省き、風景と心情が一体の関係となる独特の芸術領域を切り開いた。わかりやすい例として今日はある五言絶句を紹介する。「菊花潭の主人を尋ねるも遇へず」じゃ。

<原文>
尋菊花潭主人不遇  xún jú huā tán zhǔ rén bù yù

行至菊花潭 xíng zhì jú huā tán
村西日已斜 cūn xī rì yǐ xié
主人登高去 zhǔ rén dēng gāo qù
雞犬空在家 jī quǎn kōng zài jiā

<書き下し文>
菊花潭の主人を尋ねるも遇へず
菊花潭に行き至りて
村の西 日は已に斜めなり
主人高きに登り去りて
雞犬空しく家に在り  

<現代語訳>
菊花潭にたどり着くと、日は既に暮れて村の西に落ちかかっている。
主人を尋ねてやってきたのだが、当人は山の上に登って行ってしまったようだ。
家には誰もおらず鶏と犬が空しく残されている。

わずか20文字でさまざまなドラマを想像させる五言絶句じゃな。菊花潭は湖南省の菊花山の山間にある水池じゃ。作者は日が暮れてきたころにようやくそこにたどり着いたのじゃろう。日が落ちかかっている様子に加え、空しく家に残された鶏と犬を描写することによってむしろ主人の不在感を引き立たせておる。読後にワビ、サビの余韻を残す作品じゃな。