前回に引き続き、今回も中国文学史上最高の女流詩人とも言われている李清照の詞を紹介する。前回紹介した李清照の詞は、梅の花の美しさと自分の美しさを比べて見せたいという新婚生活のワンシーンを明るく描いたものだったが、今回紹介するのは一転、哀愁の色濃いものだ。李清照は家柄の良い家庭に生まれ、恵まれた教育を受けた。夫とも気が合い毎日仲睦まじく一緒に詩を書いたりして過ごしていたが、後に国に動乱が起こり、それに伴い多くの戦争が発生。戦争から避難する路の途中で夫が亡くなると、その後の李清照は悲しみに打ちひしがれた人生を送った。今回紹介する「武陵春・春晚」にはそんな悲しみが表現されている。

【原文】

「武陵春・春晚」
風住塵香花已尽,日晚倦梳頭。
物是人非事事休,欲語涙先流。
聞說双溪春尚好,也擬泛軽舟。
只恐双溪舴艋舟,載不動,許多愁。

【書き下し文】

「武陵春・春晚」
風住(や)みて塵香り花已に尽き 
日晚(たか)くして倦みて頭を梳く。
物是人非(ぶつぜじんぴ)なり 事事(ことごと)休(きゅう)し
語ろうと欲すれども涙先に流る。
聞くならく双溪(そうけい)春尚ほ好しと
また擬(ぎ)して軽舟を浮かばせん。
只だ恐る双溪の舴艋舟(さくもうしゅう)
載せて動かず 許多(あまた)の愁い。

【現代語訳】

武陵春・春晚
風が止んで既に樹に咲いていた花も落ちてしまった。その花のほのかな香りを土はまだ含んでいる。日が昇りだいぶ時間が経ったころに起床して身づくろいをするが、気だるい。景色はそのまま変わらないのに私の大切な人はもういない。数々の美しい出来事は全て終わってしまった。それを語ろうとするや、涙が先に流れた。聞くところによれば春の双渓は美しいという。小舟を浮かべて乗ってみたいが、恐らく私のこの愁いの重さを乗せて動くことは出来ないのではないだろうか。

【語彙】

1.風住:住は住むはなく止まる、止むという意味。
2.塵香:花の香りを含んだ土。
3.日晚:晚は夜の意味ではなく、日が高くなるという意味。
4.物是人非事事休:中国人のほとんどが知っている句。大切な人との美しい日々が既に失われ、それを懐古する際の辛さを表現する。物是/人非は対であり、物=景色は「是」(そのまま)残っているのに対し、人(大切な人)はそうではなく、もういない。事事休は万事休す(全てが終わる)と同義。
5.双溪:川の名。浙江金華県にあるという。
6.擬:~するつもりである。擬にはじっと思案するという意味がある。
7.舴艋舟:舴艋(さくもう)はバッタの類。直訳すればバッタの形をした舟ということだが、要は小舟のこと。

【簡体字/ピンイン】

武陵春・春晚
风住尘香花已尽,日晚倦梳头。
物是人非事事休,欲语泪先流。
闻说双溪春尚好,也拟泛轻舟。
只恐双溪舴艋舟,载不动,许多愁。

wǔ líng chūn
fēng zhù chén xiāng huā yǐ jìn , rì wǎn juàn shū tóu 。
wù shì rén fēi shì shì xiū , yù yǔ lèi xiān liú 。
wén shuō shuāng xī chūn shàng hǎo , yě nǐ fàn qīng zhōu 。
zhī kǒng shuāng xī zé měng zhōu , zài bù dòng , xǔ duō chóu 。