このコーナーでは中国の全ての経典の源と言われている易経(周易)について紹介します。易経と聞くと皆さんは易占いを思い浮かべるかもしれません。確かに易経は占いのテキストとして読まれ続けてきたという側面があります。ですが、一方で易経は儒教の最重要経典として位置づけられており、中華民族の智慧の宝庫であるという側面もあるのです。本サイトでは、易経を実用的な智慧の書とみなし、その驚くべき智慧の数々を易の用語をなるべく使用せずに皆さんに分かりやすくお伝えしていきたいと思います。本日は「物事の始め」を象徴する「屯(zhūn)」の卦の非常に実践的な智慧を紹介します。

中国語に「万事起头难(wàn shì qǐ tóu nán)」という言葉があります。すべての物事は始めに困難を伴うという意味ですが、出産、転職、起業などの例を見ても分かるとおり、確かに物事の始めには多くのリスクと艱難がつきものです。では、そのような多難の期間をどのように過ごせばうまく乗り切れるのでしょうか?その問いに対して大きなヒントを与えてくれるのが「屯」の卦です。

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Source:百度百科

「屯」の卦は乾(陽の気)と坤(陰の気)がお互いに混ざり合った後の第一卦です。「屯」の文字は草の生え出る様子を描いたものであり、春(元の字は旾。上の部分に屯の字が使われていますね)と通じます。つまりこれは植物の観察から得られた事物の出現を象徴する卦なのですが、この卦を見ることによって物事の始まりに対する処置方法と心構えを学ぶ事ができるのです。

しかし、そもそもなぜ物事の始まりには困難を伴うのでしょうか?この問いに答えるのは恐らく現代人の知識を持ってしても容易ではないと思われますが、意外にも屯の卦の文言にはあっさりとその理由が書かれています。

刚柔始交而难生 gāng róu shǐ jiāo ér nán shēng
(剛柔が始めて混ざり、難を生じる)

先ほど「屯」の卦は乾(陽の気)と坤(陰の気)がお互いに混ざり合った後の第一卦であるということを説明しましたが、まさしくこの文言の剛柔とは陽の気と陰の気を表しています。易経では陰の気と陽の気がお互いに混ざり合ってはじめて物事が発展するという考え方をしますが、陰と陽はそもそも相反する性質のものですので、当然混ざり始めでは摩擦を生じ、難を生じてしまうというわけです。しかし、このような困難が無ければ新しい生命も出現しませんし、いかなる事象も起こらないということも確かであると言えるでしょう。

さて、困難を伴う最初の時期にをいかに乗り切るか?という問いに対して屯の卦はどのような答えを用意しているのでしょうか。「屯」の卦の文言を読み込み、3つのポイントに絞り込みました。

1.無闇に動かない。余計な事をしない
2.落ち着く場所を見つける。
3.負荷を分散させる。


1.無闇に動かない。余計な事をしない

種が殻を破るには相当のエネルギーを消費します。その時に備えて種は地中でじっとしてエネルギーを蓄え続けますが、物事の誕生に伴う困難を乗り越える際にはこのように膨大なエネルギーを必要とします。従って、それに対処するエネルギーを蓄えることに専心すべきであるということなのです。仮に他の事をやろうとしてもうまく行かないと「屯」の卦の文言には記されています。

例えば、出産という難事を控えた妊婦さんであれば出産だけに専念すべきであり他のことはなるべくしないようにするということです。起業者であれば、落ち着くまでは大きな意思決定を避けます。また、新しく学問をやろうと決めた人は、初級のうちは覚えることがあって大変ですが、しばらくの間はしっかりと腰を据えて取り組み、他の学問へ浮気しないということです。

2.落ち着く場所を見つける。

地中に潜った種が最適の場所で留まっているように、落ち着く場所を見つけることが大事です。妊婦さんであれば英気を養うことのできる部屋で過ごすこと、また同時に安心して出産できる病院を見つけておくということです(中国ではとても重要です)。起業者であれば起業に最適な場所(中国語ではよく「风水宝地」と言われます)を選ぶことになります。受験生であれば、集中して勉強に取り組める空間が必要ということです。

3.負荷を分散させる。

人を雇ったり人に頼んだりして負荷を分散します。妊婦さんに当てはめて考えれば、ベビーシッター(月嫂)を雇っておくことなどが挙げられます。出産直後の母体は疲弊しており通常の状態に戻るまでしばらく安静にしていないといけません。この期間は赤ちゃんが産まれたらプロにお金を出してケアしてもらうと決めておくのも一つの手段であり、中国では実際多くの人がそうしています。

以上の三つのポイントを見てみますと、「省エネに徹し、エネルギーを他に向けて散らさずに一番大事なことに専心する」という原則的な態度を共通項として見て良いかも知れません。

最後に、興味のある人のためにこの卦を簡単に説明します。興味のある人は読んでみてください。

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屯の構成を見ると、まず上の卦(上の横棒三つ)が坎(水)となっています。この「坎」は穴であり、リスク、危険を象徴しています。また、下の卦である震(雷)は万物を育む雨の兆候であり、生命の誕生と結びついています。

さて、上の卦と下の卦を同時に見ると横棒が6つ並んでいますがこれはどう見たらよいのでしょうか。まず横棒には二種類あるのが分かると思いますが、真ん中から二つに分かれているのが陰、分かれていない一本の横棒が陽を表します。この6本の横棒は下から上に向かうに従って時間が経過していくと見ることができます。すると、一番下の棒は陽であり、植物に当てはめて言えば地中に潜った種です。また、この陽の上にある3つの陰は地中を表しています。上から二番目の陽は芽がまさしく地上に出ようとする際の難関を示しています。人間に当てはめてみれば、ちょうど赤ちゃんが産まれてくる時を表していると解釈することもできるでしょう。

易経はこのように事物の変化を記しています。つまり事物の変化を予測するのに特に有効とされてきたのですが、知っておくと便利な考え方が色々とあります。例えば「物事は初期においては予想するのが難しく、後になるほど予想するのが易しくなる」という原則などがありますが、この考えは日常生活でも大いに役立ち、応用範囲は広いといえるでしょう。

易経は、このように様々な智慧と啓示を示してくれます。現代の中国人の思考方式と密接に関わっているとされており、興味の尽きない書物です。今回は「屯」の卦を紹介しましたが、別の卦も紹介していきたいと思います。

Written by 岡安草莱(そうらい)

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