易経は四書五経の筆頭経典とされています。魅力的な書物であることには間違いないのですが、つかみどころがないという印象の人も多いのではないでしょうか。易経は多面的であり、様々な読み方が可能です。ざっと代表的な読み方を挙げると下記のようになるのではないでしょうか。

  1. 占いのテキストとして読む
  2. 宇宙哲学の書として読む
  3. 実践的な智慧の書として読む
  4. 道徳の書として読む

この4つの読み方の内、1、2、3は日本でも多くの書籍が出版されています。また、前回の記事では3の「実践的な智慧の書」としての側面をクローズアップし、「屯の卦」を例として解説しました。

易経の持ついくつかの側面について簡単に触れましたが、次のような疑問も自然と沸きあがってくるのではないでしょうか。

「現在の中国人は易経をどのように読んでいるのだろうか?」
「そもそも彼らは易経なんて読んでいるのか?」

この問いに答えるべく、今回は鳳凰网よりとある記事を紹介します。「李克强到访清华大学 引《易经》妙解清华校训(李克強首相が清華大学を訪問 『易経』を引用し清華大学校訓を巧みに解釈)」という記事で、中国の李克強首相が2016年4月15日に清華大学を訪問した際に学生と図書館の閲覧室で座談会を行った様子を映した2分弱の動画がアップされています。内容は易経の有名な文言であると同時に清華大学の校訓でもある「自強不息、厚徳載物(自強して息(や)まず、厚徳を以って物を載(さい)す)」について李首相が学生らに対して巧妙な解釈を述べ、激励するというものです。

下記に記事のリンクと動画中の李首相と学生の会話全文を書き起こし、日本語訳をバイリンガル表記で載せました。分かりやすさを重視したため訳には言葉を補っている箇所もあります。また、必要に応じて注を付しています。

李克强到访清华大学 引《易经》妙解清凤凰网より)

【動画内会話全文/日本語訳】

李首相:清华的校训——“(1)自强不息,(2)厚德载物”,自强不息前面有三个字,叫什么?
清華大学校訓は「自強不息、厚徳載物(自強して息まず、厚徳を以って物を載す)」。易経ではこの「自強不息」の文言の前にもう三文字ありますね、何ですか?

学生一同:“(3)天行健”。
「天行健(天行は健なり)」です。

李首相:天地在不停它的运转,是吧?我们自己也要自强不息。还有一个“厚德载物”。厚德载物前面还有一句话。
天地(宇宙)は休むことなく運行している、ということだね。我々もそのようでなくてはなりません。もう一つの「厚徳載物」ですが、(易経では)この文言の前にもう一句あるでしょう?

学生一同:“地势坤”。
「地勢坤(地勢は坤なり)」です。

李首相:知道“地势坤”是什么意思吗?
この「地勢坤(地勢は坤なり)」の意味は分かりますか?

学生一同:(即答できず)

李首相:这个“地势”啊,(4)[坤是坤卦,它有这个乾卦与坤卦] “地势”是不平地。
この「地勢」はね、[坤は坤卦の坤。坤卦は乾卦と共に有ります。] 「地勢」は平らでない(起伏や差異がある)という意味です。

李首相:(5)人间也有各种各样事情,差别,是不是?地貌、地形上面更是明显了。所以它有坤。坤是融入容纳万物的,所以叫做“厚德载物”。所以一方面我们要自强不息,另一方面我们得“厚德载物”,追求社会的公平正义,包容发展,把你们的才力发挥出来。通过自强不息毕业以后给社会做贡献。追求公平正义,让更多的人过上好日子。
この世には様々な事や差異があるでしょう?地面の形を見ればそれがもっとはっきりと分かります。つまり大地に形勢があるということだね。坤とは万物を調和し受け入れること。だから「厚徳載物(厚徳を以って物を載す)」と言うのです。
我々は休まず努力する一方で、色々な事を受け入れることが必要です。社会の公平と正義を追求し、様々な出来事を包容しながら成長しつつ、皆さんの才能を発揮してください。そして卒業後には「自強不息」を通じて社会に貢献してください。公平と正義を追求し、より多くの人々が良き生活を送れる様にしてください。

【注釈】
(1) 自強不息「乾の卦(全てが陽で出来ている男性原理の卦)」の文言。天体の運行のごとく、自ら絶え間なく努め励むこと。易経の文言にはこのように自然を道徳の規範と見る記述が多く見られます。
(2) 厚徳載物「坤の卦(すべてが陰で出来ている女性原理の卦)」の文言。大地のように厚く大きな徳によってあらゆるものを包容すること。
(3) 李首相の易の文言に関する質問に対し学生一同が即答していることから、双方とも易経の文言を暗記していることが分かると思います。
(4) この箇所は意味が整合できませんでしたので括弧でくくっています。
(5) 李首相の解釈の特徴は、「自強不息、厚徳載物」という清華大学の校訓を単なる校訓として終わらせず、大学卒業後の「社会貢献」に敷衍させ、結びつけているというところがポイントであり、記事で「妙解」とされた所以がここにあるのだと思われます。

中国での易経の読み方については、李首相の解釈に見られるように「道徳的側面」が強調される傾向にあるというのが筆者の印象です。逆にこの道徳的側面は日本ではあまりクローズアップされません。なぜ中国では「道徳的側面」が強調されるかは一概に論じることはできませんが、個人的には中国の自己修養が伝統的に内(個人)から外(社会)に向かう方向性を持っていることと無関係ではないように思います。

また、中国の人々が易経を尊び、学んでいるという事実はこの動画からよく伝わってきたのではないでしょうか。

Written by 岡安草莱

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