当サイトでは『易経』を中国の智慧の書として幾度となく取り上げてきました。『易経』には占いへの適用から箴言として読む方法、また道徳の修養や陰陽哲学として読む方法など様々な読み方がありますが、今回紹介するのは「事物の展開を予測、考察する方法」として読む方法です。ちなみに言っておくと、この読み方には「占う」という行為は必要ありません。ただ単に易の卦を実際の事象に当てはめて予測、考察するというシンプルなものです。

では、実際に易経を用いた筆者の事物展開予測の例を披露してみたいと思います。題材は冨樫義弘氏の『HUNTER×HUNTER』。最近週間少年ジャンプで連載再開となり、暫く連載した後にまた休載となってしまいましたが、この連載期間の目玉はなんと言っても天空闘技場でのクロロ×ヒソカ戦だったことに異論はないでしょう。

最高の盛り上がりを見せたこの二人の高度かつ複雑な戦闘に対し、ネット上では毎週ごとにその展開を予測するスレが林立しましたが、結果的に展開を正しく予測できた者は皆無でした。筆者も戦闘序盤においては展開は予想できませんでした。というのも、たいていの事象は初期の段階では物事の判断は難しく、時間の経過につれて表出する現象が顕著となるからです。

序盤を終えたころあたりからでしょうか、筆者はヒソカから「剝の卦」のイメージを受けるようになりました(このイメージの根拠はいくつもあるのですが、残念ながら書くと非常に長くなってしまうので割愛します)。この「剝の卦」にはこの戦闘においてヒソカの身に起きる事がかなり仔細に示唆されているため、これから紹介していきます。

ちなみに、これよりもさらに仔細な物語展開がクロロ視点の「夬の卦」に示唆されているため、後に書きます。是非読んでみてください。

まずはヒソカの視点=「剝の卦」

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全体:剝、不利有攸往。
不利である。戦うべきではない。

1.剝牀以足。蔑貞。凶。
足を失う。善い状態を保てない。凶兆である。

2.剝牀以辨。蔑貞。凶。
弁別(考察力)を失う。善い状態を保てない。凶兆である。

3.剝之。无咎。
手も足も失うが災難を免れる。

4.剝牀以膚。凶。
全身の皮膚に損傷をうける。死が迫る。

5.貫魚。以宮人寵。无不利。
魚(=群集)をひも(バンジーガム)で束ねる。バンジーガムの寵愛がある(死後の心臓愛撫)。

6.碩果不食。君子得輿、小人剝廬。
心臓までは失わない。大物であれば再び肉体を得る。

以上は「剝の卦」の文言を順番に並べ、この戦いに引き付けて筆者が解釈を施したものです(初六、六二など易の用語の使用は避けました)。

これを見てみるとヒソカの身に実際に起こった出来事がほぼ順序通り並べられていることが分かるのではないでしょうか。最も驚くべきは誰もが予想だにしなかったヒソカの復活という展開をこの剝の卦の最後の文言が示唆していることです。

碩果不食。(「おおいなる実食らわれず」と読みます)。
碩果はこの状況においてはヒソカにとっての心臓を意味することは直感的に理解できるでしょう。

さらにヒソカの復活はこの「剝の卦」→「復の卦」への移行によっても裏づけられています。二つの卦を見比べてみましょう。

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ご覧の通り、「剝の卦」の一番上の陽が一番下に落ちた形象が「復の卦」です。実を言えばこの動き方は「物ごとは極まると必ず反転を始める」という易のシンプルな原則に従っています。

さて、ここまではヒソカ視点(剝)による卦から考察してきましたが、さらに驚くべきは易経がこの戦いをクロロの視点から極めて仔細に予見しているように思えることです。

クロロの視点はヒソカの状況を示す「剝の卦」の錯卦(裏卦とも言います)「夬の卦」となります。これは「剝の卦」の陰と陽をすべて反転させた卦です。陰と陽が全て剝の卦の逆になっていることを確認しましょう。

 

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反対方向から物事を考察する際にはこのような錯卦を用いると驚くべき符合が見えてくることがあります。筆者は「剝の卦」の錯卦である「夬」の字を見た瞬間、様々な意味でこの戦闘におけるクロロを象徴していると感じました(これも書くと長くなってしまうため割愛します)。

この卦の文言を実際に見ていきましょう。

全体:夬、揚于王庭。孚號、有厲。告自邑。不利即戎。利有攸往。
天空闘技場でバトルをする。観客がパニックとなって危険。武器はすぐに使用しない方がよい。戦闘には勝つ。

1.壯于前趾,往不勝為吝。
ヒソカの足を攻撃しようとする。勝てない戦いはしない方がよいと忠告する。

2.惕號,莫夜有戎,勿恤。
観客がパニックになる。クロロは群集に紛れながら余裕で攻撃の機会を伺う。

3.壯于頄,有凶。君子夬夬,獨行遇雨,若濡有慍,無咎。
面骨に損傷を受けるがほぼ一人遊びの圧勝となる。(共闘の)濡れ衣を着せられるも本人は特に困らない。

4.臀無膚,其行次且。牽羊悔亡,聞言不信。
ヒソカが全身を損傷し動けなくなる。クロロは仲間を失った知らせに後悔する。信じられない。

5.莧陸夬夬,中行無咎。
暗黒大陸に向かおうとする。途中で行く手をさえぎるものはない。

6.無號,終有凶。
番号(シャルナークとコルトピの団員番号、もしくはシャルナークの携帯の信号と解す)が消えた。結末としては凶である。

やや前後はあるものの、実際に物語の展開がおおむねこれらの順序どおりのとなっていることが分かると思います。
筆者の解釈に関しては異論があるかもしれませんが、原文を実際の展開に当てはめて考えた場合、あながちこじつけとも言えない程の符号があることは了解していただけるのではないでしょうか。

長くなりましたが今回はこのへんで。

Written by  岡安草莱